1998年1月26日号
「戦後を読む」の中のKorean

日本に帰っていた正月休みの間に、本箱に眠っていた本を読みました。 佐高信著「戦後を読む 50冊のフィクション(岩波新書 新赤本393)」と言う本です。 一度、読んだことがあるはずですが、全く記憶に残っていませんでした。 ところが読み直してみると、私の韓国経験が増えたせいでしょうか、いい本だと感じました。

まず題名ですが、ノンフィクションならともかく、フィクションといいながら「戦後を読む」と言ってますので、 少し矛盾しているなぁー、と思いました。 ところが、著者が「はじめに」のところで佐木隆三の「ノンフィクションではどうしても正義を背負った告発の調子が強くなる」 と、言う引用を書いておりましたので、「なるほど」と思いました。 確かにフィクションであってもその時代背景を反映していなければ、読者の共感も得られなく、 売れないでしょうね。

このホームページは「ソウル便り」ですので、この本の中からKoreanに関するところを抜粋して紹介します。 全部で50冊の本が紹介されているのですが、そのうち5冊がKoreanに関係しており、 日本社会の中にもKoreanの影響が大きいことを示しています。


『山河哀号』麗 羅 著
日本人は朝鮮人に何をしてきたか
私はこの本を読んでいませんが、佐高氏が付けたサブタイトルを読むだけで内容の想像がつきます。 抑圧を受けた側の内部での人間模様も描かれているようです。

『腐ったヒーロー』生島治郎 著
日本中が熱狂した力道山のタブー
力道山が北朝鮮出身だと言うことは彼が現役時代から有名でしたが、この本ではそのタブーを解き明かしていきました。 彼と対戦した世界チャンピオンのルー・テーズにも取材して書かれています。
それにしても当時は「もはや戦後では無い」と言われ、折りから売り出された国産TVと力道山の人気が重なり、 物凄いブームでした。 小学生だった私は大人に混じって街頭TVを必死になって見たものです。

なお、著者の生島治郎は実生活でもソウルから日本へ来てソープランドで働いていた女性と結婚して話題になりました。 このいきさつを描いた「片翼だけの天使(原作:生島治郎)」と言うビデオを見たことがあります。

『拉致』中薗英助 著
日本の恥辱、金大中事件
金大中拉致事件については、いまさらここで書くことはしませんが、金大中が申亥革命の孫文の歴史に勇気付けられていたことを、この本で始めて知りました。

「政治決着」については、昨年の大統領選挙直後に報道された日本政府高官の以下の発言が印象的でした。

「あの方も大人(タイジン?、オトナ?)でしょうから、当時の日本政府の態度(政治決着してしまい、その後の韓国政府に対する参考人引渡し要求を止めてしまったこと)を許して貰えると思う」

『戦争で死ねなかったお父さんのために』つかこうへい 著
30年遅れて届いた赤紙
この本も読んでおりませんが、つかこうへいは有名な在日Koreanであり、直木賞作家ですね。

『夜を賭けて』梁石日 著
大阪造兵廠跡から鉄を掘り出す”アパッチ族”
1945年8月14日(つまり敗戦の前日)にアメリカ軍の大空襲を受けて35万坪の大工場が壊滅してしまった。 その後10年間、放置されたままになっていたのを「売れば金になる」金属類を夜陰に乗じて盗みに入るKorean(主として)と警察の攻防を描く。 小松左京の「日本アパッチ族」もその昔、評判になりました。

なお、著者の梁石日は評判になった映画「月はどっちにでている」の原作者です。


選ばれた50冊は佐高信と言うフリーライターが選んだものではありますが、 50冊の中には私が好きな松本清張が当然入っていると期待していましたら、ちゃんと入っていました。 Koreaとは関係ありませんが、好きな本なので追記します。

『ゼロの焦点』松本清張 著
よみがえるいまわしい過去
松本清張の本はどれも面白いですが、「戦後を読む」と言うからにはこの本がベストでしょう。 この本で描かれているようなことは私が小学校低学年の時でもまだ日本に残っており、 暗がりに立っている女の人を見ると、子供心に何か大人の世界をかいま見たような気がしました。

大人になり、私が始めてソウルにやってきた21年前、明洞を歩いていると20mごとに「ポン引き」 から声をかけられました(’97年5月12日号参照)。 その時「ゼロの焦点の世界だなぁー」と感じたものです。


佐高信と言う人を今まで知りませんでしたが、かなり確かな目を持っているように思いました。 著者略歴を見ると、地方の高校教師をした後、経済誌編集者をやっていたようです。 学者や政治家、小説家、一本槍の人達と違い、サラリーマン生活の経験者のようですね。 だから、私のようにサラリーマンが共感するような目を持っているのでしょう。


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