1997年8月17日号

海苔巻


韓国の「キム・バ(海苔巻)」は有名ですから、今さら報告もないかと思っていましたが、 最近、この手の店が増えてきたようです。

基本的には日本の海苔巻と同じですので、日帝時代から残っているものなのでしょうか。 あるいはもともと韓国にあったのを日本が取り入れたものか不明です。
10年くらい前は、作る技術がまだまだだったのか、美味しいのに出会ったことがありませんでした。 ところが近所のスーパー(韓国では個人経営で5・6坪の店舗が多い)のオーナーであるアジュモニが軽食コーナーを併設したのです。

すでに何回も報告していますように、ソウルの飲食店は値段が高く、予備校生などは大変だろうと想像してます。 日本の駅の「立食いうどん」のようなものは見たことがありません。 それに代わる一番安い外食はソウル名物の屋台でジャガイモの丸ごと炒めたものなどを買うか、 コンビニでカップ麺を買い、店内に備えてあるお湯サーバーのお湯を入れ、店内で食べるのです(それ用の小さなカウンターが用意してある)。 韓国のインスタントラーメンの生産量は日本よりも多いそうですが、この分もかなり含まれているのではないでしょうか。

それ以外の外食で安く済ませるには、粉食専門(7月31日号参照) の食堂になります。 2000ウオン位からのメニューがあります。 ところが、この価格帯の外食として、海苔巻屋がシェアを伸ばしてきているように思います。 私のアパート(江南)も勤務先(鷺梁津)のどちらも学院が多く、若い人が多いのです。 これらの地区では新しい海苔巻屋(持帰りだけでなく、店内でも食べられる)の「新装開業」が目立ちます。


近くのスーパーには毎日のように買物に行くのですが、アジュモニが海苔巻屋を増設したとのことで、 試しに入ってみました。 キム・バには昔のイメージがあるので味は期待してなかったのですが、 期待に反して美味しいのです。 友人に聞いてみましたら、韓国のキム・バは日本のと違って、具の種類を沢山入れるのが流行しているそうです。 彼の奥様が家で作るときは7種類以上の具を入れるのが普通だそうです。 その予備知識でアジュモニの店のキム・バを観察したら、なんと8種類の具が入っていました。

牛肉、キュウリ、蟹もどき、卵、ほうれん草、チーズ、ニンジン、タクアン などです。 量も全長30cmくらいあり、これで2500ウオンは安いです。 サイドディッシュには韓国のお作法であるキムチは付いてなく、代わりに、モヤシスープです。 一切、唐辛子が無く、若い人のキムチ離れに対応しています。 キムチは準備に手間がかかる上に、キムチではお金を取れないので能率が悪いこともあるのでしょう。
この店は安くて、美味しいので、開店早々、若い人でいつもこんでいます。 おかげで、作るのがオーナーだけでは不足して、「寡婦村」のアガシどころではない、 大年増のアジュモニがあと2人、増員されました。 韓国ではこの年代の労働力はいくらでも確保できる感じですね。 オーナーは商売の目の付けどころがいいですね。 客層は若い人をターゲットにして、 従業員は若い人でなくても済み、大規模な装置が不要で店への設備投資も少なくて済む。 しかも機械で大量生産しにくいので、大資本やチェーン店の脅威にさらされにくいと思います。


今日は、海苔巻屋を通して、若い人の食習慣の変化の一端を報告しました。 永久不変と思われていた伝統のキムチにすら、キムチ離れが起こってきています。 食べることだけでなく、その他の風俗も大きく変化しているように思います。 このような時代にはうまくビジネスチャンスを捕らえて成功する「乱世の英雄」が出てきそうな雰囲気がありますね。 これだけ多様化してくると、財閥経済だけで全てをカバーできないでしょうから、 隙間産業の活躍の余地も大きいのでしょう。


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