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      EL-34B SE E-Linear アンプ

設計目標:

前回の6080/6AS7アンプは発熱が大きいので、もう少しパワーの少ないアンプを作ってみたくなりました。別項でも書いておりますように、世界の潮流はシングルアンプに向かっておりますので、シングルでありながら音の良いアンプを狙い、ネットで製作例を探しまくり、Pete Pilletteさんが開発した『E-Linearアンプ』をベースに設計/製作してみることにしました。彼とEメールのやりとりをしているうちに、出張で日本に来ることになり秋葉原で会い、このアンプの秘訣を教えてもらい、一部の部品も貰ってしまいました。

基本回路:

彼のホームページ(以下にリンク)にSE E-Linearの記事が掲載されていますが、さらに詳しい内容は、「AudioXpress誌」、2005年4月号に掲載されています。

 Pete MIlletteさんのホームページ

 彼のE-Linearの記事

原回路はKT-88をUL接続とし、ULタップからドライバ管用のB電源も取っています。こうすると、出力管には、ULの帰還に加えて、P・SG>G1帰還もかかり、多極管特有の高いプレート抵抗と歪みを減らすことができるモノです。しかも一段帰還のため、段間の位相特性による周波数特性のうねりのない安定な回路が期待できます。カソード帰還の場合は、カソードに帰還電圧を帰しているため、結果的にG1とG2の両方に帰還をかけたことになり、E-Linearと同様ですが、カソード帰還は、32Ωタップ相当タップからの帰還電圧になるのに対して、E−Linearでは一次巻線の40%(本機の場合、560Ω相当)からの帰還となります。しかも一次巻線のタップですから、帰還電圧はリーケージインダクタンスの影響を受けにくく、安定な帰還が可能となります。

その他にもかなり凝った設計をしており、興味のある方は別項も参照してください。

ULタップからドライバ管の電源を取る回路は黒川達夫さんの製作例や、以下に示す例もあります。 

 http://www2f.biglobe.ne.jp/~furovisu/seisaku/sakuzu/21GY5s1.gif

しかしながら、出力管自体をUL接続として、なおかつドライバ管として五極管を使っている例は世界的に皆無でした。ドライバが三極管ですとプレート抵抗が低く、帰還電圧を食われてしまい、充分なNFBがかかりません。

原回路は、回路的にも部品的にもかなり凝った設計をしておりますが、私は音質を損なわない範囲で簡略化を行いました。

 私のE-Linerアンプ増幅部回路図 (Schematic of Amplifier)

 同、電源部回路図(Schematic of Power Supply)

以下に原回路と私の回路の比較を示します。

  Pete's Mine
Power Tube KT-88 EL-34B (ShuGang)
OPT James JS-6123HS Custom Orderd (Hi-Lite Core)
OPT Pri.Imp. 2.5Kohm 3.5Kohm, 40% UL Tap
Driver Tube Siemens D3a Siemens C3g
VR tube for Driver SG Yes None
Coupling Capacitor AURICAP

ERO polypropylene

Ripple Filter C-L-C-L-C C-L-C-R-C
Rectifiler Tube Silicon Diode

 

特注出力トランスの説明

シングル用でULタップを持ったモノや、コアにハイライト材を使ったモノが見あたらなく、思い切って西崎電機に特注しました。以下にその概要を示します。

  インピーダンス:3.5KΩ:8Ω

  ULタップ:巻数でB端子から40%

  コア:EI鉄心、ハイライト材 76x63mm 積厚:30mm

  4層サンドイッチ巻、一次側巻数:1,200回

部品の説明

シャーシーも自作しました。木で額縁を作り、天面は、0.8mm厚の表面はエンボス化粧済みのステンレス板を加工しました。薄いとはいえ、さすがにステンレスは硬く、ボール盤を購入して加工しました。真空管の穴は超硬合金チップ付きのホルソーを使いました。トランスの穴はジグソーを使いました。

真空管は、SimensのC3gと中国、曙光のEL-34Bを使いました。

出力トランスのコールド側からEL-34Bのカソードを結ぶコンデンサーはスプラグ社製モーター・ラン用のポリプロピレンコンデンサー(AC370V耐圧)を使いました。AC用をDCに使った場合、30%以上の過電圧に耐えるので今回の用例であるDC450Vには充分です(Peteはこのことをメーカーに電話して確認したとのことです)。

なお、このように出力トランスのコールド側を出力管のカソードにコンデンサーで直結することを「Ultrapath」と言うそうです。

CR結合のコンデンサーはERO社製ポリプロピレンコンデンサー、1600V耐圧、0.022μFを2個パラに使いました。

抵抗器のうち音声信号が通る箇所はカーボン抵抗を使いました。消費電力が大きく、2Wタイプで耐えられない箇所は複数本パラにして使いました。

電源トランスは、タンゴのMS−DAのNOS品をジャンク屋で安く買ってきました。B電圧はAC180V巻線を倍電圧整流しました。平滑用の電解コンデンサーは日本ケミコン製の105℃定格品を使いました。

チョークはオークションで落札した、古いタンゴの5H、250mA品を使い、古いもので絶縁が心配なので回路のマイナス側に挿入しました。電源トランスからの漏洩磁束によりチョークにハムが誘起されないように、それぞれの中心線を一致させ、仮に漏洩磁束があっても空間的にキャンセルされる位置に取り付けました。

ドライバー管のカソードのパスコンは以下に示す、35V、220μFの湿式タンタルコンデンサを使いました。

配線方法の説明

最近購入した2台の中国製アンプの内部を見たところ、いずれも「アース母線方式」を採用しておりました。この配線方法は私が子供の頃、ラジオの製作記事で推奨されていたモノですが、私自身、40年以上採用しておりませんでした。最近の中国製アンプの中を見て、この配線もおもしろそうだなと思い、今回採用してみました。

 アンプの内部写真 (Inside Photo)

入力端子は3.5mmのステレオジャックをシャーシー後部のサブパネルに取り付けました。このジャックは取り付けることによりGND端子が相手側のサブパネルに接触されてしまいますので、サブパネルと上面のステンレス板は6.8Ωの抵抗を介して接続しました。上面ステンレス板は電気的には、この6.8Ωだけを介して回路のGNDと接続されていることになります(一点アースおよび二重シールドの考え方を参考にしました)。

測定結果

 出力: 7Wでカットオフが始まる(バイアス電流を増やせばもっとパワーがでるはず)

 ダンピングファクター: 4.7@1KHz、1W (On/Off法)

 アンプゲイン: 30倍、入力端子から8Ω終端まで

 周波数特性 (R・LでほとんどかわらないのでRのみ表示) WaveSpectraによる測定です

 歪特性 (R・LでほとんどかわらないのでRのみ表示) WaveSpectraによる測定です

音質評価とまとめ

今までに聞いたことがないほど雰囲気を良く再現するアンプです。デーブ・ブルーベック・クインテットのライブ版の『テイクファイブ』では、ドラムの名手、ジョー・モレロの変則拍子の火の出るようなソロが間近で演奏しているような雰囲気を出してくれます。力強さにあふれ、かといって歪みは感じられなく、クラシックやJAZZなどジャンルを選ばずオールマイティーです。

今回のアンプの部品代は4万円くらいでしょうか。キーコンポーネントの選択を十分吟味すれば、それほど金をかけなくても音の良いアンプはできるモノだと言うことを痛感しました。


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