21世紀真空管アンプ回路の潮流

 

インターネットのおかげで家にいながら世界の自作アンプ愛好家が発表する新しい真空管アンプの回路例を見ることができます。別稿でも書きましたように、最近の流れは直熱三極管シングルの無帰還/低帰還アンプが盛んになってきています。世界中の多くの人が良い音と認めた結果でしょう。一方、ここ数年は傍熱多極管シングルの試作例も散見されるようになってきました。このページではそれらを紹介するとともに、私なりのコメントを書いておきます。

E-Linearアンプ:

http://www.pmillett.com/elinear.htm

ブログで書きましたように、このアンプの製作者であるPete Millettさんが出張で東京に来たとき秋葉原で会い、私も、これをベースにしたアンプ作る予定であることを話し、彼からキーポイントを教わりました。

この回路の動作原理は複雑です。出力管はビーム管(または五極管)をUL接続とし、スクリーングリッドタップからドライブ段のプレートに負帰還をかけて(それは結局、出力管の第一グリッドへ帰還したのと同じことになる)、出力管の内部抵抗と歪みの低減をはかるものです。このとき、ドライバー管の出力インピーダンスが低い三極管を使うとNFB電圧が食われてしまい、充分なNFBがかかりませんので、ドライバーは内部抵抗が高い五極管を使います。

一種のP-G帰還とも言えますが、多極管のスクリーングリッドをUL接続すると、ここにも出力が現れますので、SG-G帰還とでも言った方がより正確な表現になると思います。

このアンプは多極管の高効率(KT88シングルで15W出たそうです)と300Bよりも低い内部抵抗(DF=4)が得られたそうです。

その他、回路的に以下のような工夫が見られ、よく考えられていると思います。

*整流管としてテレビのダンパー管を使用

*ドライバのSG電圧を定電圧放電管で安定化している

*出力トランスのコールド側をフィルムコンデンサーで出力管のカソードに接続している(英語ではUltrapathと言うそうです)

*出力管にはNFBがかかっていますので、ドライバのゲインを大きくする必要があり、SiemensのHi-gm管であるD3aを起用している

 

RH 807 SEアンプ:

http://www.tubeaudio.8m.com/807/807.html

このアンプは、出力管として807を使った、P-G帰還アンプです。上記、E-Linearと違い、ドライバ管は三極管で内部抵抗が低いために終段のNFB量は少なくなっていることでしょう。あと、807のスクリーングリッドにはパスコンが入ってないので、ここに出てくる信号成分により負帰還がかかり、UL的な動作をしているでしょう。ULタップが付いていない出力トランスを使ってUL的な動作をさせるには、うまい方法でしょう。

なお、ドライバの内部抵抗が低いとNFB量が下がることを、アマチュア無線の技術的なオーソリティーであるJA1ACB 難波田 了さんが、HAM用リニアアンプ関して以下のWebで報告しています。高周波アンプの話ですが同じ理屈がオーディオアンプについても適用できます。

http://jg1xlv.jp-au.net/ja1acb-jyuku2.htm#JA1ACB-4

 

John HunterさんのEL-36(6CM5)シングルアンプ

http://home.alphalink.com.au/~cambie/John_Hunter_6CM5amp.gif

6CM5はその昔、松下のテレビの水平出力管としてよく使われた25E5の6.3Vバージョンです。

上記回路図は以下のWebにありました。

http://home.alphalink.com.au/~cambie/EL36.htm#John_Hunter

このアンプもP-G帰還を採用しています。しかも驚くことに、出力管のG1はゼロバイアスとして、信号はスクリーングリッドに対してカソード・フォロワーでドライブしています。その前の電圧増幅段との間も直結になっています。出力管のバイアス電流のふらつきを押さえるために簡単なサーボ回路を形成して安定化させています。

私は、安値で放出されているテレビの水平出力管を何とかオーディオにも流用できないかと、片っ端から特性図を眺めていて、これらの球はスクリーングリッド入力に対するプレート出力の直線性が意外と良くスクリーングリッドドライブも面白そうだな、と思っていましたが、世界にはすでにチャレンジしている人がいるのですね。

 

國分喜一さんの6V6シングルアンプ

http://www7.wind.ne.jp/l-joron/kairo_6v6.html

上記回路図は、多数の300Bアンプを自作されている國分喜一さんのホームページからリンクしました。

あれだけ多数の300Bアンプを作られながらも、上にリンクした6V6シングルも良い音がすると書かれています。

回路的には、SRPPに構成したドライバ段のカソードに対して出力管のプレートから10dBの負帰還をかけています。國分さんも書かれていますが、作りやすく失敗のおそれが少ないでしょうから初心者にも勧められますね。真空管も6V6と同等の6AQ5や7C5に変更すれば安く入手できるでしょう。また、EL-34など、もう少し大出力管に変更しても面白そうですね。

 

まとめ

直熱三極管を使えば好結果が得られるのは多くの作例が示していますが、ここに紹介したアンプはすべて多極管をシングルで使って、P-G帰還などオーバーオール帰還ではなく、局部帰還をかけて好結果を得ようとするアプローチのものばかりです。私もこの流れに賛同し、今後の自作を行っていきたいと思っています。


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