真空管アンプ雑感

2008.1.4 加筆


《先輩諸氏の話から》
久しぶりに真空管アンプを作ってみて、空白の20数年間にどのように変化したのか、最新技術はどうなっているのかが気になってネットで世界中調べたり、あるアンプ専門メーカーに勤める知人の話を聞いたりしました。オーディオは「科学であって科学でない」という面もあってなかなか結論を得ることは難しいのですが、良い音がする真空管アンプとして、以下に示す項目は多くの人が良い音がすると主張しているように思います。今後の真空管アンプ製作の参考にするつもりです。
 
(1)無帰還または低帰還である
(2)出力段は三極管である。それも多極管の三結でなく300Bのような純三極管が良い
(3)PPでなくてシングルが良い(日本ではそれほどでもないが、最近の海外の製作例はシングルが主流になっている)
(4)整流はダイオードではなく整流管の方が良い
(5)スピーカーをドライブするには最適なダンピングファクターが存在する
 
以上の各項目について、私なりの解釈を以下に書いてみます
(1)最近の雑誌は一切読んでないのでわかりませんが、ネットで調べたら以下の記事が見つかりました。
  http://www3.coara.or.jp/~tomoyaz/higa0004.html#000428
 
有名な「今日の必ずトクする一言」の中の記事です。スピーカーを負荷としたとき、電圧としてフィードバック信号を得て前段の方に戻したとき、「フィードバック電圧はスピーカーのコーンの動きを反映していない」と言うことが論点です。彼の別ページの記事を見ますと、スピーカーから出る音のF特を測定したり、人間の脳と耳の働きにまで言及しており、その博識に驚くとともに説得力のある説明と思います。
 
仮に彼の説が間違いであって、フィードバック信号がコーンの動きを反映していたとしても、その信号は元の入力信号から見れば「外乱(ノイズ)」でしかなく、外乱と元信号をミックスして一緒に増幅するというオーバーオールのNFBが、私にとって良いこととは思われません。以上より、私としては、無帰還または低帰還アンプの方が良い音がするのは理論的にも正しいと考えます。
 
(2)音が良いと評判の真空管は、211、845、300B、2A3、SV572などの直熱の純三極管のオンパレードですが、最近になって6C33が良いという声が大きくなってきたようで、傍熱管が良くないとは必ずしも言えないようです。私としては、多極管の三結やUL接続、あるいは管内で三結にしてある50CA10などが良い音がしないのか疑問です。この点について科学的に分析している記事には、まだお目にかかっていません。傍熱管や多極管の三結であっても直線性の良い球を使えば同じだと考えます。
 
(3)これも不思議な話です。どう考えても特性的にはPPの方が良くなります。しかしながら、「シングルが良い」という声は日増しに高まって来ているようです。この点についても科学的に分析している記事には、まだお目にかかっていませんが、もう30年位前でしょうか、武末数馬さんが、ラジオ技術誌で801Aパラシングルアンプを発表した記事の中で、「何故シングルの方が良い音がするかは追って(次号?)説明する」と書いてありました。私が見逃したのかも知れませんが、その後、その説明を読んだ記憶がありません。どなたか、彼の説明が書いてある文献をお持ちでしたらお知らせください。
 
なお、上記801Aシングルアンプの記事は、武末数馬さんが最初に発表したOPT付きアンプでした(私の記憶ですが)。それまでは、数々のOTLアンプを発表され、私も、名著「OTLアンプの設計と製作」を購入し、6AS7のOTLを作ったことがあります。その彼が突然シングルのOPT付を発表したのです。しかも、当時はアマチュアが直熱送信管をHiFiアンプに使うことは皆無でしたので衝撃の記事でした。
 
毎年、ラスベガスで行われるCESに出席している知人は、CESのハイエンドオーディオの会場での印象を以下のように語りました。
 
10年前は、真空管アンプは少数派であり、出品しているアンプは、ほとんど、KT−88などの多極管PPであった。KT−88の音は、中高域に独特のいやらしさがあり、聞いただけで管種を当てることができる。
5年ほど前からシングルアンプが出始めた。昨年は、トランジスタアンプの出品が減り、半分以上は真空管アンプとなり、そのほとんどがシングルアンプであった。
 
ネットでサーチしましたら、半導体を使った自作アンプでもA級シングルの試作例が散見されるようになってきました。ここにリンクするものは、アメリカのアマチュアの試作例です。このアンプも無帰還になっています。
 
さらにロシアでも半導体A級シングルの実験をしている人のWebを以下に見つけました。リンクしたページの中の「The solid-state amplifier with tube sound. (In Russian)」と言う論文です。ロシア語ですが回路図はわかります。
 
 http://www.next-tube.com/articles.php
 
日本人で実験している人の発表も見つかりました。これらを見ていると、本当に半導体でもシングルの方が良い音がするのか私も実験したくなりました。
 
(4)これもよくわからない話です。ダイオードですとスイッチングノイズを出すものがあります。ダイオードと整流管の違いは、平滑コンデンサーの値と内部抵抗くらいですので、だとしたら、同じコンデンサーの値にして、直列抵抗を入れると同じ音になるのでしょうか。中には水銀整流管を使うと、もっと良い音がすると言う人もいて、私にはよくわかりません。
 
(5)磁石とコイルの間の電磁力を動作原理とするスピーカーのようなものはダンピングファクターの違いにより動きが違ってきます。目で見て一番良く理解できるのは可動線輪型のメーターの針の動きです。現在ではデジタルメーターになってしまって眼にすることが少ないのですが、アナログタイプのテスターを持っている人は簡単に実験できます。メーターそのものは100μAくらいのものですが、並列の分流器(小抵抗)を加えれば電流計となり、直列に分圧器(大抵抗)を入れれば電圧計になります。このテスターを使ってB級アンプのように刻々と電流が変化する対象の電流を測ったときと、電圧計レンジにして、電圧が変化する対象を測定する(たとえばACレンジにしてアンプが音楽を鳴らしているときのスピーカー端子電圧を測定)と、針の動きの違いを目で見ることができます。つまり、電圧計として動作しているときは直列に抵抗が入っているためダンピングファクターは小さく針の動きが緩慢で、電流計として動作しているときは並列に入っている小抵抗によりダンピングファクターが大きく針の動きは鋭敏です。「制御工学」について勉強した人はご存じかと思いますが、過渡的な入力に対してその応答(追随)を最適にしたときを臨界制動と呼び、それになるように系(全体)を設計するわけです。オーディオの場合、スピーカーとアンプは一体となって設計されているわけでなく、組み合わせが任意ですので、我々にできることは自分のスピーカーにマッチしたダンピングファクターのアンプを使うことになります。一般に市販されているオーディオ用スピーカーから見て好ましいダンピングファクターはどのくらいが良いか、わかりやすく解説した記事を見つけましたので、ここ を見てください。

以上、私の独断がかなり入っていますので、何かご意見があればお知らせください。


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