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6080/6AS7単管PPステレオアンプ |
約20年ぶりに真空管ステレオアンプを作ってみました。目的はPCのオーディオ出力につないで鳴らすためです。
設計目標:
PCにつないで自分一人で聞くので5Wの出力もあればOKと考えました。どうせやるならいい音で鳴ってほしいので、昔、熱中したオーディオアンプ自作の記憶を呼び起こしながら回路設計しました。高額な真空管やトランスを購入せずに手持ち部品を有効活用し、ローコストながら良い音質を狙いました。
基本回路:
手持ち部品にトランジスタアンプ用の電源トランスがありました、これは本来、低電圧大電流のものですが、倍電圧整流を使えば何とか真空管のB電圧もまかなえるので使いました。出力管は、友人から300Bの音が良いと聞いていたのですが、高価で今回の趣旨に反します。同じく音が良いと定評がある手持ちの6080/6AS7に決めました。この球はローμでバイアスが深く、ドライブ段は、150Vpp以上の出力電圧が必要です。ネットで回路例を調べたら、大半が入力トランスを使用した回路になっていました。入力トランスも良いものは高い値段が付いています。
何とか入力トランス無しで6080をドライブできないか、ネットで製作例を調べまくりました。その結果、QUADUのようにドライバーとして5極管を使い、電源電圧を高くすれば、6080をドライブできそうだとわかりましたので採用することにしました。最近のアンプの自作例で、ドライバに5極管を使っているのは、QUADUタイプか300Bを310Aでドライブする位で、需要が少ないためか球自体も安値で放出されています。今回は、その中でもさらに需要が少ないと思われるロクタルのHi・gm管である7W7を採用しました。アメリカの球屋から3ドル/一本で取り寄せることができました。
最終回路を以下に示します。
位相反転段の説明
QUADUの位相反転回路の解析は、Ayumi's Lab.に詳しい説明があり参考にさせていただきました。原回路は負帰還もかかっていて複雑な動作をしているようです。私のアンプは負帰還をかけず、また、一台だけの製作ですので、原回路では、6267の真空管のバラツキを吸収するように、SG(G2)抵抗を各球に一本ずつ挿入して両SGをコンデンサーで交流分をバイパスしているのに対し、ここでは単純化して抵抗一本だけで済ませました。7W7のバランスは球の差し替えで行いました。全部で6本購入した7W7をいろいろ差し替えてみて、2ペアーを選び出すことができました。この位相反転回路は、「カソード結合+SG結合+古典的位相反転回路」の三つの位相反転作用を使っているものです。このうち「古典的位相反転回路」はバランス調整が必要で、カソードとSGをコンデンサーでバイパスしておいて、ppの出力電圧が同じになるようにボリュームを調整します。QUADUの原回路では、ここは2.7KΩの固定抵抗になっています。調整が多少狂っても、残るカソード結合とSG結合の力で出力のバランスはそれほど崩れませんし、ここはNFBに関連しており抵抗値を可変させるとNF量も変わってしまうので固定抵抗にしたのでしょう。
電力増幅段の説明
6080の規格表によると、固定バイアスではグリッドリークを大きく取れなくCR結合には適しませんので、今回はカソードバイアスを採用しました。固定バイアスに比べて最大出力が低くなりますが、目標である5Wには充分と判断しました。パスコンとバイアス抵抗は、それぞれの3極管に対し、各一個ずつ挿入しました。これによりテスターで簡単にカソード電流の絶対値とバランスを見ることができます。
CR結合のコンデンサーは0.022μFを2個パラに使い、時定数を小さめに設定し不要な低域をカットしました。
プレート負荷抵抗は、OPTとして手持ちの電源トランスを代用OPTとして使う予定にしておりました。その概要を以下に示します。
一次巻線直流抵抗 |
0−110V 17.8Ω |
二次巻線直流抵抗 |
0−20V(2A仕様) 0.6Ω |
一次インピーダンス(pp) |
上記電圧比より8Ω負荷で968Ωと計算される |
鉄心 |
E86鉄心、鉄心積厚:31mm |
一次側巻数 |
トランスの隙間に細い線を通し、1ターンの巻線を作り電圧を測定し、一次側の巻数を計算で求めた結果、1,150ターンと計算された |
一次側インダクタンス |
テスターで9Hと測定された |
電源トランス代用OPTを使うことを「オーディオのための交流理論Q&A]に書いたら、ARITOさんから特別設計のOPTを提供いただけることになりました。特別OPTは6080にマッチした2KΩのインピーダンスで作っていただきました。その概要を以下に示します。私からの特別の要求でコイルの巻数は通常よりもかなり少なくしていただきました。
次ページには、ARITOさんご自身が測定したデータを示します
一次インピーダンス(pp) |
2KΩ(設計値) |
二次インピーダンス |
8Ω(設計値) |
一次巻線直流抵抗(pp) |
19.3Ω |
二次巻線直流抵抗 |
0.12Ω |
一次側インダクタンス |
テスターで9Hと測定された |
鉄心 |
EI86ハイライト材、鉄心積厚:50mm、ラップジョイント |
一次側巻数 |
750回(pp) |
巻線構成 |
7セクション、サンドイッチ巻 |
使用部品の説明
*シャーシー:
以前、厚木のジャンク市で300円で買ったアメリカ軍の放出余剰品ジャンクですが、写真に示すように以下の表記が見られます。
POWER SUPPLY PP-1178/M 7621591 |
FIRE CONTROL SYSTEM AAM33 |
METROTEL 8272 |
「FIRE CONTROL」とは「火器管制」のことです。 「AAM」とは、「Air-to-Air Missile」の頭文字で、「空対空ミサイル」のことのようです。従って、このシャーシーは飛行機搭載用でしょうかアルミで作られています。3mm厚のアルミ板ではシャーシーパンチが使えないので真空管搭載部分だけを四角にくりぬいて10cmx30cmの1.5mm厚アルミ板を貼り付けました。
*電源トランス:
何かに使えると思ってYahooオークションで20円で落札しておいたトランジスタ用の電源トランスをB電圧用に、ヒーターおよびマイナス電源用に西崎電機で巻いてもらったものを使い、電源用には計2個のトランスを使用しました。トランジスタ用のトランスの巻線を調べたら100V CT付きと95V CT付きの2巻線があり、95V側が終段用の巻線のようです。電流容量はわかりませんが、表面に「177VA」との表示がありますので、今回の用途には充分でしょう。
*コンデンサーおよび抵抗:
ケミコンは、ニッポンケミコンの105℃定格品、段間のカップリングコンデンサーは日通工の630V耐圧フィルムコンデンサーを使いました。抵抗は、主としてKOAの酸金を使いました。ボリュームは栄通信工業の10回転ポテンショメーターを使用しました。
*真空管:
6080/6AS7は、一つの球の中の二つの3極管は、悪い球でも5mA以内のアンバランスに収まりました。その中でもRCAの6080やNECの6520(6AS7の高信頼管)は、1mA以下の良いバランスを示しました。ちなみに、あるアメリカの球屋の宣伝には、Tungsolの6520は、WE421Aよりも良い音がする、との趣旨の記述があり、6AS7よりもかなり高い値段が付いています。
メーカー間のバラツキは、かなり大きく、1KΩのカソード抵抗両端の電圧で、65〜75Vの間にバラツいていました。できたらL/Rチャンネルは同じメーカーの球を使うといいでしょう。7W7に関してもメーカー間の差異が大きく、私はSylvaniaの球を使いました。
測定結果
主としてWaveSpectraを使って測定したデータを示します。
まとめ
出力は目標を達成しました。音は、無帰還アンプながら聞いていて歪感は感じられませんし、中音域が艶やかで音が良く前に出てきます。心配していた、真空管アンプにありがちな低域がブーミーになることもなく、切れの良い音で鳴っています。
製作コストは全部で1万5千円くらいではないでしょうか。欠点としては電力消費が大きく、B電圧は300mA近く消費し、部屋の温度上昇にも一役かっていますます。夏場用にはもう少し省エネのアンプを作らなければならないと思い始めました。
謝辞:
このアンプを設計製作するにあたり、『Aymui's Lab.』の”QUADU”についての解析記事を参考にさせていただき、さらに管理人であるAyumiさんには、SPICEによるシミュレーションをしていただきました。また、2KΩという変則的なインピーダンスの出力トランスについては、ARITOさんにて特別品を作っていただきました。御両名に深く感謝申し上げます。