1998年2月8日号
自己宛小切手

韓国の最高金額紙幣は1万ウォン札であることは良く知られています。 ソウル五輪以来のインフレにもかかわらず、それ以上の金額の紙幣は発行されていません。 最近の急激なウォン安に伴い、日本円に換算すると800円の価値しかないものです。 これでは不便ですので、銀行が振り出す自己宛小切手が紙幣と同様に流通しています。 この小切手は個人が振り出すものと違い、倒産しそうな銀行が振り出すもの以外は信用度が高く、 買物などのときに紙幣と同様に使うことができます。

ソウルでは街のいたるところに銀行がありますし、地下鉄のコンコースにはATM/CDマシンが設置されており、 銀行カードやクレジットカードで現金を得ることは容易です(但し、外国で発行されたクレッジットカードではキャッシングできない)。 そのような機械でも現金にするか小切手にするか選択可能です。 大抵の韓国人は高額のときは小切手を選択しているようです。 また、ATMから預金する場合も小切手で入金できるのです。 つまり、銀行という一企業が振り出したものであるにもかかわらず、紙幣と同じ感覚で流通するのです。

私は日本人の常で現金が好きなため、いくら財布がかさばっても小切手にはしませんが、一度だけ小切手でもらったことがあります。 10年ほど前、韓国のプロジェクトでの功績で韓国の会社から表彰され、副賞として90万ウォン貰いました。 封筒を開けると小切手が入っていました(当時に比べ物価が3〜5倍になっていますから、今の感覚では300万ウォンくらいの感じでしょうか)。

今日は知人(韓国人)の小切手にまつわる話です。


知人のXさんは、何カ所かへの支払いのために銀行口座から2000万ウォン弱の預金を下ろし、 1000万ウォンの小切手を一枚と何枚かの100万ウォン小切手を持って最初の支払先まで行った。 そこは個人経営の小さなところであるが、社長のAさんに380万ウォンの支払いのために、 100万ウォン小切手を4枚渡し、20万ウォンのおつりを貰った。 一旦、家に帰って来て、先ほどの小切手は1000万が1枚と100万ウォンを3枚渡してしまったことに気が付いた。 Aさんに電話すると100万ウォンを4枚しか貰っていないと言った。
なお、小切手は金額に関係なく同じサイズで、金額がアラビア数字とハングルで併記してあるだけの違いであるとのことです。

直ちに振り出した銀行に連絡し、小切手番号を調べてもらい、換金にきたら連絡してもらうよう依頼した。 3日くらいしてCさんと言う人が換金したと連絡があった(自己宛小切手は銀行が振り出しているので、 自分の手を離れてしまった以上、最初の持ち主のXさんからの要請であっても換金停止処置はできないようです。 できない故に現金と同様に通用することができるのでしょう)。

Xさんは銀行に行き、当該小切手を見せてもらうと、裏には使った人の裏書き署名が書いてあった。 それによると、流通経路は、 X>A>B>C>銀行(換金)、となっていた。 Cさん、Bさんの家に行き確認すると、この経路で流れたのは間違いないと言ってくれた。 Aだけが、自分で銀行から入手したもので、Xさんから貰ったものではないと、言い張った。 振り出した銀行での小切手番号とXさんへの発行記録も残っているので、Aが嘘を言っているのは間違いない。

途方にくれたXさんは裁判に訴えても取り返そうとして、弁護士に相談した。

弁護士の話:これだけの証拠があれば勝訴は間違いない。 ただし、このような裁判は優先度が低いため、 5年くらいかかるし、裁判の費用が5000万ウォンくらい必要で、結局、泣き寝入りする方が金額的には良い。

Xさんが呉 光朝に語った言葉:「Aは知らない人でなくて知っている人ですよ。 どうせ裁判には出てこないと、しらばくれているのでしょう」


悲しい話ですね。 これだけの話の中にも韓国社会のさまざまな問題点、人間模様が見え隠れしているように思いました。


2月の目次に戻る みんなの落書き帳に進む

8