1997年11月11日号

獨島海物湯


久しぶりに本来の「ソウル便り」に帰ってきました。
タイトルを見てびっくりされた方も多いと思います。 「獨島」はご存じのように、「竹島」のことです。 このホームページでは政治的なことをとり上げないようにしておりますので、 私の意見を書くことは控えますが、ネットサーフィンをしておりますと、竹島について、日本サイド、韓国サイドの意見を読むことができ、 なかなか便利な世の中になったものです。


「獨島海物湯」と言うのは、勤務先のすぐ裏にある食堂の名前です。 ハングルで書いてあるので、すぐには気がつきませんでしたが、先日、会社の運動会があり、 その打ち上げで、総務部の人が予約し、利用したときに気がつきました。 それにしても、食堂の名前に紛争地域の名前を付けるとは、日本人の感覚では理解できないのです。 まあ、韓国人はこの名前を付けてもお客から嫌われることもないでしょうし、逆に良く覚えて貰えるから宣伝効果が大きいのでしょう。 日本の食堂だったら、いかにも美味しそうな名前をつけるのにと思いました。 もっとも、日本の自宅の近くには「板門店」と言う名前の焼肉屋がありますので、このように考えるのは私だけかも知れません。


「海物湯」と言うのは韓国料理の一つで、私も好きな鍋物の一つです。
韓国料理の名前は日本料理、中国料理と同じく、最後が調理法になっていることが多いです。
以下に鍋物に関して最後の文字からの分類を示します。 但し、それらの区別が厳格に守られてなく、 クロスオーバーしていることも多いですし、韓国人自身に説明を求めても「アヤフヤ」なことが多いです。 このようなところにも厳密さを求めようとすること自体が日本人的かも知れませんが、 気になり出すと止まりませんので、まとめてみました。

***湯
参鶏湯、カルビ湯、コム湯、カムジャ(ジャガイモ)湯、チュオ(ドジョウ)湯などでおなじみですが、「湯」と言うからにはスープです。 最初の「***」には主材料の名前が入ります。 1人前用の食器(陶器または石器)ごとに調理場で調理し、 テーブルに出されますが、金属の鍋ではないため、まだ沸騰しています。

韓国名物「補身湯」(犬)もこれに分類されます。 88年のソウル・オリンピックの時に海外から非難を受け、 禁止になっているはずですが、名前を変えて堂々と看板に書いてあります。 現在の名前は「四節湯」が多いですが、「栄養湯」、「健康湯」とも言います。 同僚に聞いたところによると、「補身湯」自体がすでに名前を変更されたもので、 その前は、ズバリ「ケ肉湯」と言っていたそうです。 「ケ」は「犬」の韓国固有語です。

***チゲ
こちらは、上記「湯」と似ていますが、スープよりも「具」にフォーカスした名前です。 やはり調理場で調理済みのものが出されます。
「テンジャン(韓国味噌)チゲ」、「スン豆腐チゲ」、「センソン(魚)チゲ」、「ブデ(部隊)チゲ」などです。 但し、「スン豆腐チゲ」は最後のチゲが省略されている場合がほとんどです。

***ジョンゴル
台湾の「麻ら火鍋」で紹介しましたように、日本で言うところの寄せ鍋で、 テーブルの上のガスコンロで調理しながら、みんなで鍋をつつくのです。 大抵の食堂では最低注文数量が2人分以上ですから、私のように一人で生活していますと、 来客があったときか、会社の夕食会くらいしか食べられません。 「***」のところには「オジンオ(以下)」、「ククス(うどん)」などです。 「栄養(犬)ジョンゴル」もありますよ。

海物湯
以上、長々と書いてきましたのは、私の好きなこの料理が、上記分類から逸脱しているからです。 形式は正に「ジョンゴル」の寄鍋形式であり、さらに、「湯」と言っておきながら、「具」を楽しむものです。 「海物」とは海産物の意味ですが、魚は使いません。 イカ、貝、エビ、練製品(なるとみたいなもの)、野菜などが入っています。 「具」が少なくなると、「うどん」又は「ご飯」を入れて最後まできれいに食べられます。 なかなか美味しいものです。
日本人観光客の間では明洞の「全州屋」があまりにも有名なため、 「石焼ビビンバ」がダントツの人気ですが、海物湯など、それ以外の美味しい料理にも挑戦していただきたいです。

獨島海物湯の写真はこちら


以上、料理の話にふさわしくなく、理屈っぽく書きましたが、韓国人と一緒に海物湯を食べるときに、 上記、矛盾を一席ぶっておくと、「お前は韓国のことを良く知っている」と一目おかれますし、 後日、何かの論争になった時に「だからKoreanは論理的じゃないんだ」と言うときの、以前言っておいた伏線として有効です。 こう言った生活の知恵を身に付けておくのも、ソウル生活の秘訣の一つです。


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