1997年8月28日号

ドライタイプ・ビール


日本に帰っておりますが、ドライ・タイプのビールを連日飲んでいます。 韓国ではドライ・タイプのビールは製造されてないようです。 韓国でどうしても辛口ビールが飲みたいときは、以前、報告しました中国人経営の中華料理店で「青島ビール」 を飲むのです。 私はこの店では、時々、中国語の単語をしゃべる変な日本人として知られており、 だまっていても「今日は青島の在庫があるよ」と教えてくれます。


日本でビールを飲んでいたら、アサヒ・スーパードライが衝撃のデビューをした時のことを思い出しました。

当時、私は住友系の会社に勤務していました。 現在の日本の財閥は韓国の財閥と違って、 グループ内の結束はそれほど強くありません。 しかしながら、私が勤務していた会社は結構義理堅く、会社の保養所などではアサヒビールしか用意してないことが多かったのです。 アサヒビールは住友系なのです。

そのようなわけで、普通の人よりはアサヒビールを飲む機会が多かったのですが、 当時のシェアは業界3位で、長期低落傾向を示しており、パッとしない会社だったのです。 だけどビールの味自体は美味しいと感じていました。 なんとなく、味が濃い感じがしていたのです。 私はキリンビール一辺倒の風潮に反逆して、ことあるごとに「アサヒビールは美味しい」と言いふらしていたのですが、 その時、濃い味を説明するために「味にコクがありながら、しかも舌に残った後味がスキッとして、切れ味がいい」と言っていたのです。

そんな時代が2〜3年続いたのでしょうか、ある日、新聞に「アサヒ・スーパードライ」の新製品発表の大きな広告が出たのです。 私は目を疑いました。 「コクがあるのにキレがある」と大きな活字が紙面に踊っているではではありませんか。 「アッ、俺のコピーを盗まれた」と、思いました。 もっとも、何の登録もしてないし、 「盗まれた」と言う筋合いではないのですが、そのときは純粋にそう思いました。 さっそく、購入して飲んで見ましたら、確かに、コピーどうりの味がしました。 私は、「俺にはコピーライターの才能があるのではないか」と、一瞬、自惚れました。

当時、コピーライターは時代の最先端を行く花形職業としてもてはやされていたのです。 技術屋の私は、毎日、シャープペンシルを持って机に向かい、図面を書く地味な仕事をしていたのですが、 華やかなものにあこがれる気持があったのでしょう。 若かったのです。

宣伝だけで物が売れるわけではなく、アサヒビールはマーケット調査などで、 「コクがあるのにキレがある」と言う消費者の好みをつかんでおり、その味を実現するため、 酵母菌や製法の改良を続け、スーパードライの開発に成功したのでしょう。 それ以来のアサヒビールの快進撃は御存じのとうりで、 住友銀行出身の樋口社長は経営立て直しの神様として、チョー有名人になりました。


Korea語、日本語とも味を表現する単語が少ないのではないかと思います。 単語が少ないと、複数のコトバを組み合わせて表現するしかないですが、 コトバの性質上、自分だけが理解するのではなく、相手に判ってもらわなければなりません。 上記コピーでは「コク」と言う、味を表現する適切なコトバがあり、都合がいいのですが、 「キレ」は本来の「切る」と言う動作を表すコトバを借用しています。 日本人同志であれば、理解されるでしょうが、外国人への説明や翻訳では難しいでしょう。

なお、先日、例のデリカテッセンのオーナーと話をしていたら、面白い話を聞かせてくれましたので紹介します。

韓国語には味を表現する単語が多い。 例えば「辛い」一つをとっても、いろいろな「辛い」を表現する単語がある。 しかし、最近の若い人はそのような単語を知らないので、料理の味の表現が単純すぎる。 極端な場合は「旨い」、「不味い」だけしか言わない。 どのように旨いのか判らない。


私はこちらのコトバがよくわかりませんが、オーナーが言うような難しい単語を日本語に翻訳する時、 同じ意味の日本語の単語が無い時、翻訳者は困るのでしょうね。 日本語から韓国語への翻訳でも同じですね。 「コク」に相当する単語はあるのでしょうかね。 「無いから、ドライタイプのビールが無い?」、(うそうそ)。


8月の目次に戻る みんなの落書き帳に進む