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   ミサイル搭載用真空管でA2級増幅

1:概要

島原 音の博物館さんから珍しい球を譲っていただきました。管面の印刷が無く、身元不明の球です。売っていた店の人は、「レイセオン社製で高射砲のVT信管用(近接信管=当たらなくても近づくだけで爆発させる信管)の球らしい」とのことでした。この情報を元にレイセオン社の真空管の規格表をしらみつぶしに調べた結果、以下の理由によりCK5703WBに違いないと確信しました。

「高射砲」は、WW2までに配備されていた兵器で、ジェット機時代に入ってからは高射砲では届かない高空を飛ぶようになり、急激に廃用が進みました。レイセオン社の真空管規格表によると、1950年代後半に発行された同じような形状の真空管の規格表が多数発行されています。「高射砲が無くなった時代なのに、VT信管用の真空管が新規開発されている?」と疑問がわきました。ひらめいたのは<レイセオン社は現在でもミサイルメーカーで、自衛隊が持っているパトリオットミサイルはレイセオン社製だ。そうだ、ミサイルにもVT信管を使うんだ!>と理解しました。

今回のアンプに採用したCK5703WBのレイセオン社の1957年発行の規格表は以下にあります。

http://www.mif.pg.gda.pl/homepages/frank/sheets/138/5/5703WB.pdf

今回のアンプは、メインアンプの前に挿入する<真空管を使った歪み発生器>を構成し、次段のD級パワーアンプに音楽信号を流し込み、手軽に「真空管サウンド」を楽しむ、との狙いです。

2:回路説明

この球は、100MHz位の高周波数を発振させるのが本来の用途です。今回のように音声周波数の増幅および真空管サウンド歪発生の用途には工夫が必要です。

歪み発生のためには真空管に与える電圧を低くするのがベターですが、この球は電流が流れにくく、自動車のバッテリー電圧の12V位では私の狙いどおりの動作になりません。 そこで、以前自作したアンプの電源部だけ残して増幅部分だけを今回の回路にスワップすればシャーシー加工も不要で工作が簡略になります。電源電圧も34Vありますので、狙いどおりの動作になります。

電圧は34Vと決まりましたが、まだ十分な電流が流れません。そこで、思い切ってノーバイアス(ゼロバイアス)で動作させたら面白いことに気づきました。ノーバイアスですとグリッド電流が流れ歪みが増えますので、普通には採用されない方式ですが、本機は<歪発生器>ですから、逆に好都合です。グリッド電流に対処するため、手持ちのタムラのライントランスを使いました。二次側は中点タップに接続し、インピーダンスを下げ、無終端で使いました。添付されていた実測データを以下に示します。

3:使用部品

ノーバイアスですから、音質に影響する度合いが大きいカソードのパスコンが不要になり、真空管以外の音の味付け要素が無くなり好都合です。プレート負荷抵抗はDale社製の巻線抵抗を使いました。 出力のカップリングコンデンサーは、中国で買ってきた軍用規格のオイルコンデンサーを使いました。

*電源: 
ノートPC用の15Vおよび19V出力のACアダプタを使い、二階建てにして34Vを得ました。真空管のヒーターは2本直列にして15V電源からシリコンダイオード4本直列にした電圧ドロッパーを介して供給しました。

4:測定結果

ゲイン: 1.7倍
F特: 10Hz〜40KHz +/-0.5dB以内
歪: THD=1.08% (1.0Vrms出力時)   
THD=4.27% (2.3Vrms最大出力時)


FFT画像でわかるように、二次歪と三次歪が拮抗しています。このあたりがA2級真空管サウンドの特色ではないでしょうか。

方形波には少しリンギングが出ています。これは10KHz以上のF特がわずかに持ち上がっている、Daleの巻線抵抗の持ち味が出ているのだと思います。