中国製805シングルアンプの解析 |
[回路的な特長]
このアンプは、メーカー製としては世界的にも他に例を見ない「直熱三極管によるカソードチョークドライブ方式」を採用しています。カソードチョーク方式は、アマチュアの自作品では散見されますがメーカー製としては、私の知る限り初めてのものです。このアンプの旧モデルは、すでに2003年に市販されていてカソードチョークドライブを使っていますが傍熱管によるドライブでした。今回のモデルチェンジで、直熱三極管である2A3をドライバーとして起用しています。以下に、メーカーWebページの旧モデル(T10B)と今回の新モデル(T10B−3)の回路図をリンクしておきます。
805は、本来はB級プッシュプルで使うよう設計されており、ゼロバイアスのとき、わずかなプレート電流しか流れず、入力トランスを介して強力にドライブしてやると、プッシュプルで260Wもの大出力が得られる球です。本アンプのようにA級シングルで使うときは、グリッドをプラスにして、無信号時のバイアス電流を流す必要があります。本機の無信号時の動作を以下に示します。
*プレート電圧: 985V
*プレート電流: 110mA
*グリッド電圧: プラス 15V
*負荷抵抗: 6KΩ
大信号が入ったときは、瞬時グリッド電圧はマイナス領域までスイングしてやる必要があるので、従来の設計では、ドライバートランスを使うことがほとんどです。ドライバートランスは、それ自体の音が出てしまうおそれがあり、良質なものの入手が難しい難点があります。これを嫌った設計としては、カソードフォロワーを使う例も見られます。その一例を以下にリンクします。
http://www6.plala.or.jp/Michi/83835wseamp_091017.htm (このアンプは838を使っていますが、838と805のEp−Ip曲線は同じです)
カソードチョーク方式を使えば、805にグリッドがプラス/マイナスの両領域をスイングすることができます。しかもチョークはインダクタンス負荷(逆起電力負荷)であるために、マイナス電源が無くても瞬時のマイナススイングが可能となり、回路の簡略化ができます。また、ドライバートランスを使った場合、一次・二次間の伝送特性が良いものを使う必要がありますが、カソードチョーク方式では、チョークの中を信号が通過するわけでなく、信号を交流的に地絡させない程度の性能のもので充分です。性能的に多少劣るチョークでもカソードフォロワーの低インピーダンスでダンプされて表面化しません。以下に、シミュレーションによる、40W出力時の805のグリッドがフルスイングされた時の写真を示します。正弦波のマイナスのピークでは、−44Vまでスイングしているのが分ります。アンプとして負電源を持っていないのに、−44Vまでもスイングできるんですから、このメリットは大きいです。
上記、波形の下側が尖っていて二次歪みが多いことを示していますが、前段の6AC7が発生しているようです。805自体が二次歪みが大きく、これとキャンセルさせるために6AC7の動作点を選んだように見えます。この辺りのノウハウをよく知っている中国人設計者のテクニックに感心しました。
[初段の回路的な特長]
初段管は、メタルチューブとしては最高のgmを誇る6J4P(アメリカ名:6AC7)を五極管接続で使っております。しかも負荷抵抗を小さく抑え、上記、二次歪打消効果が得られる動作点にしているようです。6AC7やそのロクタル管である7W7/7V7は、ヒーター電流が450mAと大きく、安定なエミッションが得られると期待して、私も多数保有していますが、このアンプでも採用しており、「さすが!」と感心しました。
G2のバイパスコンデンサーとして、普通,この場所には使わないオイルコンデンサを使っていることと、傍熱管であるにもかかわらずハムバランサーを使っています。この辺りにも設計者の良い音質を得るための何らかの意図が潜んでいる気がします。
[電源部の回路的な特長]
1000VのB電圧は、AC800Vの巻線をブリッジ整流しています。キャラメルタイプのブリッジダイオードなら一個で済ますことが可能ですが、それを4個使い、各一個は、内部のダイオードを直並列として使用し、電圧的にも電流的にも2倍の容量として使っています。前段用のB電圧は、AC170V巻線を倍電圧整流しています。ここでも内部ブリッジダイオードのうち2個だけ使うように工夫されています。終段と前段のトランス巻線を分けることにより、信号によって大きく揺さぶられる終段のB電圧が前段に影響しないように考えられています。
1000VのB電圧は、整流後、即、ケミコンに接続されていますが、その後、整流管を通してからチョークに入っています。この整流管の役目は不明ですが、中国製アンプでは多用されています。ACラインから混入するライン電圧のフリッカを軽減する役目があるのかもしれません。
本機は、電源トランスをAC100V入力に変更することと、ケミコン容量を、330μF x6個から470μF x6個への変更をお願いし、価格アップ無しで実施して貰いました。
[マジックアイ]
本機には出力レベルを監視できるように、マジックアイによる表示が付いています。絶対レベルを測定するわけではなく、単なる飾り程度ですが、我々「五球スーパー世代」には懐かしいものです。使われている球は、側面表示タイプの6E2というものですが、これは欧州名:EM87と同等管です。手持ちの国産、6R-E13と差し替えてみようと思いましたが、ピン接続が違っていました。
[主な使用部品]
6J4P:旧ソ連OTK製 30年ほど前に製造されNOS品? 米国名:6AC7
2A3B:中国 曙光製 最近の製造品
805A:中国 曙光製 最近の製造品 トッププレートでなくベース内にプレートが出ている
5Z3P:中国 北京製 30年ほど前に製造されたNOS品? 米国名:5U4G
電源・出力トランス: このアンプのメーカーである、バオ・アール社内製 コアは新日鉄ハイライトコア H10/0.35mm
カップリングコンデンサー: ERO製 マイラーフィルム
2A3カソードパスコン: フィリップス製電解コンデンサー
[特性]
まだ実測しておりませんが、シミュレーターによれば、以下の性能が得られそうだとわかりました。実測したらまた報告します。
最大出力:40W (約5%のTHD)
ダンピングファクター: 1.2 (NFB=約3dB) こんなにDFの低いアンプは珍しいですが、私のスピーカーではブーミーな音にならずに歯切れの良い音で鳴ってくれます。
[試聴評価]
以下のブログに書いておきましたので、ご参照ください。
http://ja1cty.at.webry.info/200910/article_9.html
(2009.10.29)