回路シミュレーターによる

4E27三結シングルアンプの基本設計

 

今まで使ってみたいと思っていた、真空管回路を取り扱うことができる回路シミュレーターについての良い本が出ましたので早速買いました。その本の紹介はここをクリックしてください

付録にはTINAというSPICEベースのシミュレーターの「Book版」が付いており、著者がこれまでに作製してきた真空管と出力トランスのSPICEモデルが収納されていましたので、インストールしてすぐ使うことができました。ただし、Book版は回路数に制限があり、ちょっと大きな回路になるとシミュレーションが走りません。別途、TI社が自社の半導体拡販用に、TINAをカスタマイズした、TINA−TIというものを無料で配布していますが、真空管モデルの組み込みが簡単ではありません。つまり両者とも制限があるわけですが、制限内容の違いを利用してすり抜けることができます。つまり、回路図はBook版で作製し、シミュレーションはTI版で行えば良いわけです。まだ高度な使い方はできませんが、基本的なことがマスターできたので、今年の後半に製作を予定している、直熱管によるシングルアンプの基本設計をシミュレーターでやってみましたので報告します。

設計目標:

845などのローμ三極管はバイアスが100V程度と深く、ドライブが大変です。ネットで国内外の製作例を調べたら、単純なCR結合か、トランスによってドライブ電圧を稼ぐ方式の二つに二分されます。

CR結合を使用した場合であっても、バイアスが深いためにグリッドが負の領域だけで大きなスイングが可能で、845シングルでも15W程度の出力が取れ、定評がある845の音質を充分楽しむことができるでしょう。トランスドライブは、グリッドをプラスの領域まで振り込むことができるので出力が大きく取れますが、ドライブトランスによって音に色づけされてしまう可能性が高いです。今回は、高価な845を使わずに、直熱五極管である4E27を三結にして使用しました。この球は三結にすると845に似た低内部抵抗と良好な直線性が得られ、しかも一本40ドル程度の捨て値で売られています。以下は、4E27三結の特性です。

今回は、ドライブトランスを使わずに4E27三結のグリッドをプラスまで振ることができるドライブ回路の可能性についてシミュレーションしてみました。

プラスまで振り込むことができ、トランスを使わない方式として以下の二つが考えられます。

*C結合としておいて、グリッドチョークを使う。

つまりCR結合ではなくて、CL結合になるわけです。この方式は、無線と実験の2008年度「テクノロジーオブザイヤー」に輝いた、スペース社の805シングルアンプに採用されています。

*カソード・フォロワーの低い出力インピーダンスを利用し、グリッド電流が流れても強力に流し込むことができるようにする。

この方式は、他の真空管では良く用いられる方式ですが、845のように深いバイアス管では製作例が少なくなっています。今回は、シミュレーションによって、この方式でも充分ドライブできることを確認したかったわけです。

基本設計:

4E27三結のバイアスが100V程度とすると、電圧増幅段は200倍くらいのゲインが欲しいところです。5極管を使えば1段で稼ぎ出せるゲインですが、大きなスイングも同時に必要なので、両方を達成できる5極管はまず無いでしょう。結局、無難な3極管2段増幅ということになります。

電圧増幅段の2段目は、EL34と6L6の三結をシミュレーションしてみました。高いプレート電圧に耐え、適度な電圧増幅度を持ち、なおかつ音が良いと定評がある球として、これらの二球に代わる球はまず見つからないと思います。シミュレーションの結果、EL34よりも歪みが少ない6L6を採用しました。

6L6三結が数倍増幅しますので、初段は30倍程度の増幅を行えば良いことになります。無帰還アンプですので、μが40程度の三極管を使えば良いことになり、中国製の6N3を使用しました。シミュレーターのライブラリーにモデルが入ってなかったので、それらの特性表から真空管モデルを作りました。

カソードフォロワー管の出力インピーダンスは、1/gmで近似されます。gmが大きいほどインピーダンスが低くなります。今回は、名うてのハイgm管である12GN7Aを使うことにしました。ちゃんとライブラリーに入っていました。筆者もこの球に注目してモデルを作っていたんでしょうね。

 

シミュレーション用回路図:

電源部のシミュレーションは後回しにして、電圧源を使っています。5つの電圧源を使っていますが、実機では以下のようにしてそれほど複雑にしないように考えます。

+700VはサンスイのPT−800のAC310V巻線を倍電圧整流します。+350Vは倍電圧整流の中間点から取ります。+130Vと−300Vは、オークションで落札しておいた小型トランスを使ってまかないます。バイアス電圧はレギュレーションが不要なので-300Vから抵抗分圧して用います。

出力トランスは、モデルに入っている中から適当に、7KΩのものを使いましたが、実アンプでは、タムラのF−2005を使います。7KΩの高級出力トランスは種類が少なく、貴重な品種です。

 

シミュレーション結果:

バイアスは-110V,プレート電流は96mAです。上記は、21.5W時の波形です。このときのTHDは、1.9%となりました。DFは、2.5が得られ、無帰還アンプとしては優秀な値となりました。

 

まとめ

実際に回路を組み立てることなく、これだけのことができるのですから便利な世の中になったものです。実機で無駄なことをやらずに済み、あらかじめシミュレーションで有望な回路を2種類くらいに絞っておいて、実機で最終調整すれば開発期間の大幅な短縮ができそうです。

(2009.6.7)


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