特注 211シングルアンプ |
概要:
このアンプは、私が設計を行い中国のガレージメーカーであるBEZ社に特注で作らせたものです。設計についての説明はすでにブログで発表しておりますが、「永久保存版」とするために、ここに編集し直して再掲します。
BEZ社について:
以下のブログを参照ください
はるばるきたぜ、中国の真空管アンプメーカー 2010.8.23
回路説明 1:
今回の特注は、急に思い立ったちました。最初は、中国のハイレベルな設計者と会って話してみたいという単純な動機でした。アメリカ人としての最高の設計者である、Pete Millettさんとは、何回もお会いして情報交換してますし、日本の上級者とはWebや掲示板、Skypeでおつきあいしています。BEZについては、訪問が決まってから、「せっかく行くのだから・・・」と、特注することを思いつきました。
今回の特注アンプの最大の特徴は、211で40Wの出力を得ることです。211アンプは28年前に自作していて(以下の2008.1.20のブログ参照)、音は大変気に入っているのですが、なにしろ10W位しか出力が取れません。
当時は、回路理論がよくわかってなく、電源電圧が950Vであるにもかかわらず10W位しか出ません。その頃の雑誌記事では、211で10Wくらい、845で15Wくらいの記事が多く、211は845よりもパワーが出ないものと思っていました。使用しているタムラの出力トランスF2005の定格最大出力は8Wと書いてあり、『211、その他用』として販売されていました(F2005は今でも売っています)。
ところがグリッドをプラスまで強力にドライブしてやると211の方が845よりもパワーが出ることがわかったのは、「島原 音の博物館」館長の渡部さんが作った211の40Wアンプのブログを読み、実際に博物館を訪問して音を聞かせていただいたからです。早速、私もシミュレーションしてみたら、確かに40W以上得られることがわかりました。
211で40Wを出すためには、グリッドをプラス領域まで強力に駆動してやる必要があります。以下の一覧表は、各ドライバ球について、入力に10V入れたとき、カソードに何ボルト出てくるかシミュレーションで求めたものです。
最高の成績を収めたのは12GN7で、一時は採用を決めたのですが、プレートが小さいのとバイアスが浅いので敬遠し、6BQ5を選択しました。
上記、一覧表作成のためのシミュレーション回路図を以下に示します。終段は典型的なプラスバイアス管である805を使い、1000Vのプレート電圧のとき、ドライバの球を変えても805のプレート電流が100mAと一定となるよう、サーボを付加してあります。
回路説明 2:
本機の電圧増幅段に求められるゲインは、無帰還アンプですから大して必要ありません。入力信号電圧を211のグリッドをフルスイングするのに必要な約70Vrmsまで増幅するだけです。つまり約50〜100倍のゲインがあればOKです。三極管一段でこのゲインを得ることは可能ですが、200Vppもの振幅を得ることは難しく、五極管1段増幅か三極管を2段使って増幅することになります。どちらを選択するか一長一短がありますが、今回は三極管2段増幅としました。
2段目は200Vppもの振幅を取るため電源電圧を高くする必要があります。今回は電圧増腹部のB電源として400Vを用意しました。終段の1000Vから抵抗でドロップさせることもできますが、ドロッパー抵抗がかなり発熱するのと、大きな信号電流で1000Vラインが揺すられ、それが400V側にも影響するのを嫌い、400V専用のトランス巻線を追加してもらいました。この辺が特注の強みで、好きなように電源トランスを巻いてもらうことができます。
B電圧が高いので、2段目の真空管は耐圧の高いものが必要で、6SN7を起用しました。規格表ではそれほど高い耐電圧が書かれていないですが、内部構造的に電極やリード線の間隔が大きく配置されており、高い電圧に耐えると考えました。また、6SN7は『音が良い真空管』として評判ですので好都合です。
6SN7が10倍近くのゲインを持っているので、初段は5〜10倍のゲインでよく、ローμの球ならなんでも良いのですが、どうせやるなら、低内部抵抗の球を使ってみようと、6N6を起用しました。ミュレーション用に真空管モデルも作っておきました。
私の原設計では無帰還アンプとなっていましたが、BEZの黄さんの最終チューンナップでごくわずかの負帰還をかけてくれました。
回路説明 3:
211のEp−Ip特性に10KΩのロードラインを書き込んだものが上の図です(クリックすると大きくなります)。
バイアス点は、1KV,100mAとしてあります。入力信号を正弦波とするとこの図に現れない右側は2KV強まで書かないといけませんが見にくくなるので、入力信号のプラス側の半サイクルだけ書いています。マイナス側半サイクルもロードラインを右下に向かって対称的に動きます。
A1級では、グリッド電流を流さないので、ロードラインとEg=0Vの曲線の交点(B点)までしかドライブできません。そのときの出力は、三角形(A−B−C)の面積となりますので、グラフから読み取って面積を計算すれば、約10Wとなります。本機では、グリッドをプラス領域のB’点まで強力にドライブして、三角形(A−B’−C’)の面積となります。グラフから以下の数値を読み取ります。(注:パワーの求め方については、ここを参照)
(A−C’)の長さ=1000V−70V = 930V
(B’−C’)の長さ=190mA−100mA=90mA
従って三角形(A−B’−C’)の面積=(930V x 90mA)÷2=41.85W の出力となります。
この出力は、無信号時プレート入力電力である100W(1KV x 100mA)に対して、41.85%のプレート効率が得られることを物語っています。また理想的な場合として、ロードラインが縦軸と交わるところまで仮に駆動できたとすると、三角形の面積は50Wとなり、教科書に「A級増幅の理論的最大プレート効率は50%」と書いてあるのと一致します。
私が28年前に作った211シングルアンプは、上記、A1級くらいの範囲でしか駆動できていないので約10Wの出力となっているわけです。211ではなくて、845ですと内部抵抗が低いためEp−Ip曲線が立っていますので、ロードラインとEg=0Vの交点の電圧が低い(つまり、A−Bの長さが長い)ので211よりもパワーが出るわけです。300Bや2A3が、プレート損失の割にはパワーが出るのは、同様に内部抵抗がきわめて低いからです。
*出力トランスについて
上記説明ではわかりやすくするためにロードラインを10KΩとしましたが、実機では7KΩを使います。シミュレーションでは10KΩくらいの方がパワーも歪みも良いのですが、黄さんのすすめにより、トランスとしての特性が素直なBEZ製の7KΩを採用することにしました。10KΩと比べてもそれほどのパワーと歪みの劣化はありません。この点、負荷インピーダンスの変動に敏感な五極管よりは楽です。
採用する7KΩの出力トランスの概要は以下です(黄さんから詳細を聞いたのですが、ノウハウに属するので以下の内容にとどめてほしいと言われました)。
最大出力: 75W
鉄心材料: 新日鉄 H10 ハイライト材 0.35mm厚 EIコア
巻線構造: 五層サンドイッチ巻き
直流抵抗: 未公表
インダクタンス: 未公表
漏洩インダクタンス: 未公表
周波数特性: 10Hz〜50KHz(−2dB)
サイズ: 98×116×116mm
重量: 5.7Kg
まとめ:
所定の40Wを得ることができ、音質もすばらしいと思います。BEZ社では、このアンプをT10A−6と名付けて売り出しています、そのWeb宣伝には、私の名前も、原回路設計者として記載してくれています。試聴結果、最終回路などを以下にリンクしておきます。